デビューから2年、カワサキの「転んでも壊れない」ヒューマノイドロボットの進化はいかに

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人型ロボットを災害現場に派遣したり、あなたの介護をサポートする ― こんな未来を想像してみてください。映画のワンシーンは浮かんでも、私たちが暮らす実際の社会での場面を具体的にイメージしようとすると、ピンとくる方は少ないかも知れません。

そんなヒューマノイドロボットの実用化に本気で取り組むのは川崎重工。「2017国際ロボット展」でヒューマノイドロボットがデビューしてから2年。12月18日(水)から21日(土)まで東京ビッグサイトで開催される「2019国際ロボット展」では、実社会での活躍画面を見据えて進化を遂げたヒューマノイド、「Kaleido(カレイド)」がお目見えするとのこと。

本記事では「2019国際ロボット展」に先駆けて、「Kaleido」の最新モデルにおける進化や特徴、開発にかける川崎重工の想いを紹介していきます。

「Kaleido」のプロフィールと初デビュー当時の振り返り

まずは「Kaleido」の簡単なプロフィールから。
身長は178cm、体重85kg。人間の成人男性とほぼ変わらない大きさです。ベンチプレスならば、50kgから60kg程度まで持ち上げられるなど、パワーも人並み以上。32軸のモーターが駆動して、ロボットの動作を制御しています。

人が暮らす環境で活躍することを見据えて、例えば人が通れる道を通ったり、人と同じ道具を使えるよう、人と同じサイズであることにこだわりを持って開発が進められています。

「Kaleido」(漢字表記:華麗人)という名前は、「変化自在、無限進化、天空の煌めき」といった意味に由来しています。日々変化する社会で人と共存し、親和する存在であるとともに、予測不能な災害現場での対応など、厳しい場面で人の役に立てるロボットになる、といった想いを込めて名付けられました。

「2017国際ロボット展」での初デビュー時は、転んだ状態から起き上がったり、ダンベルを持ち上げる、懸垂するといったパフォーマンスを披露。当時の様子を特集したこちらの記事も合わせてご覧ください。

僕たちのとなりにロボットがやってくる日は近い? 川崎重工の次世代ロボットたち

では、最新モデルではどのような進化を遂げたのでしょうか。順に見ていきましょう。

UPDATE1:バッテリー内蔵で、電源不要に

最新の「Kaleido」は、バッテリーが内蔵され、スタンドアローンで動作(※)できるようになりました。2年前は、4台の産業用ロボットのコントローラーや電源供給用のケーブルにつながれた状態でした。これらのケーブルがはずれたことは、実用化に向けての大きな一歩。「2019国際ロボット展」では、自由に動く「Kaleido」をご覧いただけます。

※本取材では開発中の現場での取材のため、転倒防止及び電源コードがつながった状態での撮影となりました。

UPDATE2:力覚センサーで、二足歩行が可能に

2つ目の特徴は「二足歩行」。人間にとっては簡単な動作でも、ロボットにとっては繊細な作業です。

二足歩行には、ロボットのバランスを計測するためのセンサーが一役買っているそう。共同研究を行う東京大学・稲葉雅幸教授の情報システム工学研究室(JSK)から指導を受けて開発されました。足首に搭載した力覚センサーが、ロボットが転倒しないように制御しています。このセンサー導入により、これまで四足歩行や掴まり歩きしかできなかった『Kaleido』の二足歩行が可能になりました。

UPDATE3:ビジョンセンサーで、対象物を認識できるように

ビジョンセンサー、つまり人間の目にあたるカメラシステムを導入したことで、対象物を見つけ、作業できるようになりました。目の前にあるペットボトルを掴んだり、対象物に向かって歩くことも。

実際に床に落ちている柱を認識して、掴み、歩いている様子がこちらです。

対象物を認識し、掴み、運ぶ。人間の基本となる動作を確実に遂行する様子は、ヒューマノイドが社会で活躍する未来を十分に想像させてくれます。

ヒューマノイドは世の役に立つ―そう実感して向き合う「Kaleido」の開発

人の役に立つロボットを目指し、既に災害救助という具体的な利用シーンを想定した開発が進められている「Kaleido」。「2019国際ロボット展」で披露される「Kaleido」について、開発をリードするイノベイティブロボット部・掃部(かもん)雅幸氏に話を伺いました。

― ヒューマノイドロボットの開発における難しさは、どのようなところにありますか?

「端的なポイントは、ロボットが持てる重さ(可搬重量)とロボット自身の体重との差です。例えば、80kgを持ち上げられる産業用ロボットの場合、ロボット自体の重さは500kg程度が一般的です。しかし、私たちが開発目的のひとつとする災害救助の場面を想定すると、80kg程度のロボットで、80kgの人間を抱えられる必要があります。可搬重量を上げながらロボットの体重を抑えるために、外骨格の素材を樹脂にするなど、さまざまな努力を重ねています」(掃部氏)

産業用ロボットとヒューマノイドロボットの開発ノウハウは、共通する部分も多い一方、異なる部分も多いそう。産業用ロボットの開発では通常行わないような試みも取り入れながら、構想、設計、試作、評価といった一連のサイクルを猛スピードで繰り返し、「Kaleido」は進化を続けています。

― 最新の「Kaleido」開発にかけた意気込みやエピソードを教えてください。

「2017年に初披露したヒューマノイドロボットは、電源やコントローラーのケーブルがつながったままで、鎖につながれた飼い犬のような状態。『あれはまだヒューマノイドじゃない』とおっしゃるお客様もいらっしゃいました。そのため、今年の国際ロボット展では、何が何でも電源内蔵を果たすことを目標に開発に取り組んできました。その成果が実り、なんとか”鎖”が外れた状態で「Kaleido」をお見せできるまでに至っています。

一方、電源を内蔵した分、ヒューマノイドのボディーは重くなります。そうすると、歩行のスピードも落ちる。軽やかな歩行を実現するためにも、可能なかぎり軽量化を徹底的に追求し、2年前と同じ水準の体重を実現することができました」(掃部氏)

開発に取り組みはじめた当初は、本当にヒューマノイドロボットは実現するのか、人の役に立つのか・・・手探りの状態が続いたとのこと。

しかし、今の想いは違います。「Kaleido」は世の役に立てる。開発を進めながら、そう手ごたえを感じられるようになったそうです。本当に使ってもらえるロボットをつくりたい―そんな想いを胸に、実用化に向けた川崎重工の挑戦は続きます。

最新モデルで新しく追加された機能は、それぞれ見ための派手さはなくても、どれもヒューマノイドが実際に社会で人の役に立つにあたって欠かすことのできない機能ばかり。社会実装に向けての川崎重工の本気の想いが伝わってきます。

12月18日(水)に初日を迎える「2019国際ロボット展」では、これらの新しい機能を駆使した展示(※)が予定されています。2足歩行できるようになった「Kaleido」がルームランナーを歩く常設展示。1日に数回行われるデモンストレーションには、災害救助とダンスをあわせたエンターテイメントショー。ロボットがとなりにいる未来を想像して、気軽に楽しんでいただけるプログラムを用意しています。

是非、会場に訪れ、ロボットと共存する未来を感じてみてはいかがでしょうか?

※川崎重工の出展場所は東京ビッグサイト・青海展示棟「Bホール30」です。

川崎重工がヒューマノイドロボット開発に取り組む意義や経緯については、以下の記事でもご紹介しています。ぜひご覧ください。

人とロボットが共存する社会を見据えて―カワサキのヒューマノイド開発が目指す未来