お台場から広がるロボットの社会実装。 産業用ロボットの“伝道師”、Kawasaki Robostageの使命

Kawasaki Robostage

Pepperのようなヒト型サービスロボットや、家電としてすっかり浸透した掃除機ロボットなどと違い、産業用ロボットは一般的には馴染みが薄い。しかし、川崎重工が国産初の産業用ロボット「川崎ユニメート」を発表してから早50年超。自動車や家電、スマートフォン、食べ物、医薬品など、我々の身の回りのあらゆるモノの生産現場に産業用ロボットはもはや不可欠な存在だ。その産業用ロボットと、私たちが暮らす社会の距離を一歩近づけよう。そんな使命を担ったロボット情報発信地が東京・お台場にある。Kawasaki Robostageだ。

ロボットを“体験”するショールーム

ゆりかもめ「お台場海浜公園駅」から首都高高架下をフジテレビ本社方面へ歩いておよそ5分。潮風を受けてそびえる高層ビルの一角に、最先端のロボットが集うショールーム、「Kawasaki Robostage」はある。自動ドアをくぐると、まず目の前に現れるのは2本のアームを持つ協働ロボット「duAro(デュアロ)」。自動検温システムを携え、温度センサーを取り付けた“彼”の右手にゲストが額を近づけると、バーで通せんぼしていた左手が音もなくスッと開き、ゲストを優しく迎え入れる。「さあ、ようこそ。ロボットの世界へ」

入場時の検温からduAroが活躍
入場時の検温からduAroが活躍
入場時の検温からduAroが活躍

産業用ロボットのリーディングカンパニーである川崎重工が、ロボットのショールーム「Kawasaki Robostage」をお台場にオープンしたのは2016年8月6日のこと。約132平方メートルの空間に、川崎重工のテクノロジーの結晶である産業用ロボットの数々を設置。ときにダイナミック、ときに繊細なロボットの動きをすぐ目の前で見て、感じて、体験出来るショールームとして、これまでおよそ10万人の来館者を出迎えてきた。

2019年時点で、世界中で稼働している産業用ロボットの台数は272万2077台に上る。市場規模はそれまでの10年で2倍以上に拡大した。加えて、コロナ禍以降はとりわけロボットや自動化技術の採用が拡大すると見られている。(*1)いよいよ現実味を帯びて迫ってきた、ロボットと人が共に生きる社会。そんな未来を見据えて生まれたKawasaki Robostageは、いわゆる単純なロボットの展示場とはひと味違う。ロボットに関心を持ってもらい、知識を深め、身近に感じてもらうという、いわばロボットの社会実装の入り口としての役割も担っているのだ。

人気のヒューマノイド(人型ロボット)Kaleido(カレイド)も展示
人気のヒューマノイド(人型ロボット)Kaleido(カレイド)も展示

*1:『World Robotics Report 2020』(国際ロボット連盟)

溶接ロボットを活用したVRアトラクションも

私たちがロボットを理解し、距離を縮めることが出来るように、Kawasaki Robostageではどんな取り組みを行っているのだろうか。Kawasaki Robostage館長の合田一喜氏は語る。

Kawasaki Robostage館長 合田一喜氏
Kawasaki Robostage館長 合田一喜氏

「2016年の開設当初は、双腕スカラロボットのduAroを中心に展示していました。それまで産業用ロボットというのは安全柵で囲われた中でのみ動かすものでしたが、duAroはその柵から外へ出て、人のすぐ隣で稼働することの出来る協働ロボットです」

人と肩を並べて仕事をすることの出来る協働ロボットduAroは、来場者の関心を大いに惹き付けたという。寿司を握ったり、基盤を組み立てたりする“仕事ぶり”を披露したり、お客様の似顔絵を描いたり、ときには直接手にとって操作体験をしてもらうことも。「ロボットを実際に見るのが初めてという方も多く、もっと無骨な姿をイメージしていたとか、意外と柔らかいとか、親しみやすいというご意見をよく伺いました」

オープン一周年を機に、大規模なリニューアルも実施した。その際、目玉として導入したのが産業用ロボットとVR(仮想現実)の技術を融合した「K-Roboride(ケー・ロボライド)」というライド型アトラクション。システムの主体は、昨今人気の4DXシアターのような“映像に合わせてきめ細やかに動くシート”と、高画質な360°映像を流すヘッドマウンドディスプレイ。現在提供しているのは、「まるでドローンに乗っているような」体験が出来るコンテンツ。そして、このK-Roborideのシートを動かすのが、自動車工場などでもお馴染みの本物の産業用ロボットだ。主に溶接プロセスで活躍している大型の垂直多関節ロボット「Bシリーズ」のアームを、観客が座るバケットシートの根元に連結。バーチャル映像に合わせてシートを前後左右上下に動かすことで、極めてリアルに近いバーチャル体験を提供するのである。

産業用ロボットとVR(仮想現実)の技術を融合した「K-Roboride(ケー・ロボライド)」
産業用ロボットとVR(仮想現実)の技術を融合した「K-Roboride(ケー・ロボライド)」

小・中学生向けのロボット学習教室を開設

エンタテインメントとして楽しむことで産業用ロボットを自然と学ぶことの出来るKawasaki Robostageは、オープン以来観光スポットとして人気を集めてきた。しかし最近客層に変化が現れているという。合田氏いわく、「ロボットのことをもっと知りたい、勉強したい。そういうお子さんが明らかに増えています。例えば自由研究のためにやってきて、スタッフに話を聞いたり写真を撮ったりする小・中学生のお客様が少しずつ多くなっているんです」

「いくらで買えますか?」「お料理は出来ますか?」「この骨格はどうしてこういう形状になっているんですか?」 ノート片手にロボットについてのあれこれをスタッフに質問する子供たちの姿。彼ら、彼女らに向けて、何かKawasaki Robostageとして出来ることはないだろうか。そう考えた合田氏らが立ち上げたのが、小・中学生向けのプログラミング教室だった。プログラムというのは、ロボットにさせたい仕事を順番に書いた命令書のようなもの。ロボットに人間の指示を理解してもらうための大切な“言葉”といえる。

「スタートしたのは2018年の夏でした。対象としているのは小学生から中学生までの学生さんたち。カリキュラムをスタンダード・アドバンスに分けて、段階的にレベルアップしてもらえるようにメニューを組んでいます」 スタンダードはいわゆる入門編。産業用ロボットの教示作業を行うティーチペンダントに触れてもらい、まずはロボットを自分の手で扱うことからスタートする。ロボットアームをXYZの座標軸に動かすというシンプルなもので、「クレーンゲームのような感じです。狙ったモノを取り上げて、狙った位置に運び、狙った通りに置くという操作を体験していただきます」

実践編ともいえるアドバンスでは、いよいよプログラム作成に挑戦。ロボットに作業を実行させる手順や動作を指示する“ロボット言語”のタイピングはお子さんにとっていささか難易度が高いため、Excelのマクロを活用して動かせるようなツールを作成した。リピート(繰り返し)や条件分岐(設定した条件を持たすかどうかで行う処理を変更する)を含めたプログラムを作る、というのがアドバンス。回転寿司を模したセットを用い、空いている皿にいくつ寿司を並べるのかという課題を通して、どう動かせば最も効率的にすべての作業を完了出来るかということを学ぶ。行うべきことの要素を分解したりまとめたりしながら、最適な組み合わせを論理的に構築していくプログラミング的思考が養われるカリキュラムだ。

Kawasaki Robostage プログラミング教室「カワサキロボット エンジニアになろう!」内容

※保護者同伴

ロボットは勝手に動かない

ロボットが勝手に動き出すことはない。命令(プログラム)があって初めてちゃんと動く。合田氏らが実施しているプログラミング教室は、その事実を子供たちに向けて伝えている。「スイッチ一つ押せば何でもやってくれるというわけじゃない。ちゃんと人間が望んだ通りにロボットを動かすためには、プログラミングが必要です。その一方でロボットはプログラミング通りにしか動けません。ですので、プログラミング自体を学ぶだけでなく、ロボットへのプラミングを通じて、“最適な動き”を論理的に考え、かつ創意工夫する機会を提供出来たら。そう考えています」

今では、誰でも無料で学べるオンラインのプログラミングツールもたくさん存在する。しかし、と合田氏は指摘する。「我々のカリキュラムの場合、自分の目の前でモノを運ぶなどの物理的な作業をすることが出来ます」 そこには、本物の作業用ロボットのアームが、自分が初めて作ったプログラム通りに動くという実感と臨場感がある。またプログラム通りにロボットアームが動いたとしても作業がうまくいくとは限らない。そんなときにはすり合わせや工夫も必要になる。そのリアリティとインパクトは「他には無いものだと思います」。現実的な手触りを伴う体験は、成長してからも自分の中に色濃く残り続けるはずだ。

ロボットアームによる動作までアウトプットできる教育用ロボット
ロボットアームによる動作までアウトプットできる教育用ロボット

コロナ禍以前は公営の施設や夏祭り会場、博物館などからオファーを受けて“出張授業”を行うことも増えてきていた。「ニーズは増えていると感じています。これまでは夏休みなどの休暇期間に実施してきましたが、出来れば常設にしたい。もっとカリキュラムを細分化して充実させ、ロボットを学びたい子がより知識を深められるような内容にしていきたいですね」

ロボットを「遠く」から「近く」へ

IoT、インダストリー4.0、コロナ禍。目まぐるしく変化する世界で、ロボットの社会実装は急速に進んでいる。それでも、ロボットは仕事で実際に直接関わりがあるという人や、テクノロジーにとりわけ関心が強いという人たち以外にはまだまだ浸透していないと合田氏は言う。「およそ50年前から社会の中で働き続けてきたロボットですが、いまだに『面白くて便利そうだけど、遠い世界の話だろう』という認識の方も少なくありません」 実際、現場ですでに活躍しているカワサキロボットについて説明した後に、こう質問されることもある。「それって、いつ頃から使えるようになるんですか?」

Kawasaki Robostageが掲げるコンセプトは、「人とロボットの共存・協調の実現」。ロボットは今現在でも私たちの生活へ密接に関わっているが、その流れは今後より大きな時流になっていく。その未来を見据えて、“ロボット人材”を育成していくのがKawasaki Robostageが担う使命だ。

プログラミング教室以外でも、Kawasaki Robostageを訪れる小・中学生は多い。修学旅行のシーズンになると、1日に2〜3校の生徒がやってくることもある。「最近は遊ぶ、というよりも、勉強をしにくる生徒たちが増えてきました。事前学習をしてから、しっかりと質問を準備してくるんですよ」

合田氏が見据えているのは、そんな子供たちが大人になった未来だ。「これからロボット市場が拡大していくにつれて、ロボットに関連する職業も裾野が広がっていくと思います。例えば、ここで小さい頃にロボットを触ったことのある子供たちが、その中に入っていくかもしれませんよね。作る側かもしれないし、使う側かもしれない。いずれにしても、これまで別々だった“人とロボット”をもっと身近にしてくれる人たちがここから生まれたとしたら、この施設の使命はその時に果たせると思います」

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