Case03 航空機用の精密部品を作り出せ! カナダ・オンタリオ州サプライヤーの場合

主に「単純・単調・単一的」な作業を人間に変わって行う専用自動機と異なり、「複雑・複数・複合的」な仕事にも従事出来るのが産業用ロボットである。とりわけ近年はビジョンシステムや力覚センサなどが進化したことで、ロボットがこなせる仕事の幅はさらに拡大。お馴染みの自動車や電子・電気機械工場での大量生産ラインだけでなく、食品、医療、化学・光学といった分野まで、今、産業用ロボットは従来の枠を超えて活躍の場を大きく広げている。

世界中で働く産業用ロボットの様子を追跡中のXYZ編集部も、“意外”な現場の噂をキャッチした。どうやら、航空宇宙産業に関わる某企業が産業用ロボットの導入を決断したという。特殊部品の精密加工を生業にする現場で、果たしてロボットがどんな仕事を行っているというのか。早速取材に行ってみることとしよう。

一切のミスが許されない航空部品

カナダのオンタリオ州ミシサガは航空宇宙産業の一大拠点だ。300を優に超える関連企業が軒を連ね、また、その大手企業に部品を供給するサプライヤーやシステムインテグレーターも多く所在している。今回の主役は、工場がひしめくその一角で、航空機に欠かすことの出来ない「ナットプレート」と呼ばれる部品を製造している企業のようだが ー 今まさに、一人のベテラン社員が、社長に挨拶をして会社を去ろうとしている模様である。

社長:君が居なくなるのは本当に痛手だよ。

マイケル:せっかく慣れ親しんだ仕事なんですが、こうも年を重ねると集中力も手元もおぼつかなくて。なにぶんミスの許されない航空部品ですからねえ。

飛行中の部品の脱落を防ぐため、航空機には様々な工夫がなされている。多用されるねじにも、構造上の宿命ともいえる“緩み”を防ぐためのセルフロック機能を持つナットなどが使用されるのが常である。ナットプレートもその一つで、ねじ穴のついたプレートを機体にリベットで直接固定するという、頑丈かつ堅牢な航空機構造を支える重要な機構部品だ。

社長:ああ、厳しい品質を守るために、しっかり時間を割いてトレーニングを積んできた貴重なスタッフがまた一人居なくなってしまった。また一から訓練し直さなくてはいかんのか……。

200種類以上のパーツを、ロボットで作り分ける

Agent K:そんな精度の求められる仕事こそ、ロボットの出番ですよ!

社長:……ああびっくりした。藪から棒に一体なんだっていうんだい。大体ねぇ、ナットプレート一つといっても、うちで作っているのは225種類ものバリエーションがあるんだ。板にただ同じ穴をひたすら開けていってリベットを差し込むだけってわけにはいかないんだよ。

Agent K:200を超える部品の識別は3Dの画像処理ソフトウェアにお任せを! 異なる部品だってちゃんとロボットが正確に取り扱いますよ!

大中小のサイズに分かれたワンアームの垂直多関節ロボットが3機現れた。“腕”の長さは小さいもので1m弱、一番大きいものになると2mを超える。

社長:ちょっとちょっと、待ってくれよ。うちの工場はスペースにこれ以上余裕なんてないんだ。こんなロボット3つも入れたら、お互いに干渉しあって作業にならないんじゃないかい?

Agent K:ロボットには、毎回同じ場所にぴたりと“手先”を位置決めする正確な「繰り返し精度」が求められます。重たい部品を運んだとしても、決めた場所にぴたりと置くことが出来るんです。その誤差はなんと0.1mm以内。またロボットアームは毎回同じ時間・経路で動作するため、すれすれで動いていたって、ぶつかる心配はありません。

社長:ふうむ、じゃあこの3兄弟が連携して一連の作業をこなしてくれるってことか。でもね、繰り返すようだけどうちで扱っているのは航空部品。厳密な精度だけじゃなくて、耐腐食性も求められるから、最後にしっかりシーリング材で保護(防水性・気密性を保つための処理)してやらなくちゃいかんのだよ。

Agent K:ですから、力のいる大きなロボットから、細かい作業向きの小さなロボットまでをご用意したんです。さてさて、役割分担は次の通り。まず、一番大きなロボットのアーム先端には、ツールのつけ直しが必要ないように3種類のツールとスキャナーを一本のフレーム上に装着したものが取り付けられています。最初に3Dビジョンを使ってナットプレートを取り付ける部品をスキャンして、部品を正しい位置にぴったり整列させます。次にドリルツールで部品にナットプレートを固定するためのリベットをはめる穴を開けたら、今度はリベットをピックアップ。その間に中型ロボットがナットプレートを持ち上げて、正しいものかどうかをチェック。問題なければ部品の所定の位置にナットプレートを配置して固定します。そこに大型ロボットが真空ツールを使ってリベットを持ってきて、最初に開けたリベット穴にリベットを差し込みます。これでプロセスは完了です。

社長:この一番小さなロボットは何をしているんだい?

Agent K:この小型ロボットは、ナットプレートとリベットの組み合わせが充分な耐腐食性を確保出来るよう、ちゃんとシーリング材で密封出来るかどうか、それが適切に出来たかどうかのビフォー・アフターをチェックする役目を果たします。

ロボット同士が密接に連携するための安全策

社長:いくら精度に優れているからっていっても、こんなにロボット同士が密接に連携して稼働するんだったらやっぱり衝突しないか心配だよ。リベットの受け渡しなんか、本当にぶつかったりしないのかね?

Agent K:万が一のアクシデントを予防するために、これも用意しましょう!

Agent K:こちらはロボットの動作を監視する安全ユニット「Cubic-S」。ロボットの動作範囲を指定した空間内に制限したり、安全信号のやり取りを行ったり、想定外の力が外から加わった場合にロボットを停止してくれる“監視員”です。

ロボットとロボットだけでなく、ロボットと人間が協働で作業する時代には、双方の安全を確保するための仕組みが必要だ。人間とロボットが常に安全に協調出来る空間を目指して開発された安全監視用ソフトウェアが、「Cubic-S」なのである。

社長:なるほど。万一の事故を未然に防ぐための“監視員”ってわけか。じゃあ早速、試しに使ってみるとしよう。

あれから1週間。ほとんどの建屋が眠りについた夜の工業地帯で、煌々と照明をともしている一角がある。そしてそこには、忙しく動き回るロボットの様子を窓越しに眺めている2人の影が。

社長:おかげさまで、これまでは3人必要だったオペレータは1人で済むようになったよ。それなのにサイクルタイムは26秒も短くなったし。

Agent K:24時間、問題なく稼働出来るようになったんですね。

社長:人間が作業すると、どうしてもリベットの高さに差が出ちゃって、あとで削らなくちゃいけないこともあったんだけど、ロボットならバラツキもないから無駄な廃棄物もほとんど無くなった。それに、リベットを削るときにはさびを防ぐための処理をしなくちゃならなかったが、その必要も最早なし。つまり、さび止め剤の購入費まで削減出来たってことだ。

Agent K:コストの削減と時間の節約。この2つに満足いただけたなら、私もロボット冥利に尽きるというものです。

社長:ロボット冥利だなんて、まるであんた自身がロボットみたいな言い分だなあ、ってあれ?どこに行っちゃったんだ?……まったく、忙しないお方だ。まあ、またいずれ会えるだろうさ。さあ、私も仕事仕事!

「人手が足りない」、「技術継承が思うように進まない」、「品質を向上したい」。世界中の働く現場で、今日も多くの“声”が上がっている。その悩みやニーズに応える一つのソリューションとして、ロボットが役立つのなら −− そんな思いで世界を忙しく飛び回るAgent Kのような存在は、もしかしたらあなたの仕事場のすぐそばにもいるのかもしれない。

[付記]
このストーリーは、川崎重工における事例に基づいたフィクションです。実際の現場で課題になっていたのは、「単調で時間のかかるプロセスに、従業員が定着しない」「厳しい部品の品質要求を満たすため、徹底した従業員認定システムが必要で、充分なトレーニングを要する」「製品品質が安定しない」という3点。それらを解決するために、3体の小・中型汎用ロボット+画像認識ソフトウェア+ロケータ+安全監視システムを導入。225種類のバリエーションがある28種類のナットプレート構成を、ロボットが識別しながら組み立てる一連の工程を自動化しました。

今回のケースで登場した川崎重工製品については、以下をご参照ください。

小・中型汎用ロボット「Rシリーズ」

可搬重量3〜80kgに対応する13種類のバリエーションをラインナップした垂直多関節ロボット。組立・ハンドリング・シーリングなど、幅広い用途に適応可能。高速、大トルク、広範な動作領域を誇り、ハーネスの内蔵化やスリムなアーム形状などにより、コンパクトに設置出来るのも特徴。

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