Case02 バッテリーの生産量を2倍にせよ! アメリカ・イリノイ州工場の場合

1962年、世界初の産業用ロボット「ユニメート」がアメリカで誕生した。それから約60年、いまや地球上で稼働している産業用ロボットの数は270万台超にのぼる。近年はロボットを導入する事業分野も拡大し、国際ロボット連盟(IFR)のレポートによると、世界の工場における産業用ロボットの年間設置台数は、この10年の間で3倍以上にまで増えているという。では、実際ロボット達は日夜どんな現場でいかなる仕事に従事しているのだろうか。所変われば現場も変わる。海の向こうでは、ちょっと意外な任務を任されているロボットもいるらしい。我々XYZ取材班は、そんなロボット達の仕事ぶりを追いかけるべく、今回もカメラ片手に飛び立った。

アメリカ第3の経済都市にして、五大湖工業地帯の中心地、イリノイ州シカゴ。高層ビルが林立するその大都会から西に車で30分ほど走ると、古き良き風情と最新の商業地区が共生する町、ネイパービルに到着する。この地で、1950年から重機などに利用されるバッテリー製造を行ってきた老舗企業がBattery Builders, LLC(以下BBI)だ。

彼らの製造しているバッテリーは、自動車に広く使用されている、いわゆる鉛蓄電池。簡単に説明すると、鉛合金で出来た陽極板と陰極板の部屋(セル)、そしてそれを満たす電解液をプラスチックの容器に収めたもので、電気エネルギーを放出したり蓄えたりすることのできる二次電池である。

工場内を覗いてみると、はてさて、なにやら揉め事の真っ最中。
数名の従業員が古びた機械をぐるり取り囲んで、何事かを口論している。

グレアム:まただよ、これで何回目かね。

クライヴ:なにしろ四半世紀も酷使してきたんだ。病気がちなのも仕方がないっちゃ仕方ないさ、オレだってほらあちこちガタがきて……。

ポール:それにしたってこう毎度故障を繰り返されちゃあ、仕事にならないよ。

彼らを困らせている張本人は、近年のバッテリー製造プロセスで一般的に使われている専用機、COS(キャストオンストラップ)マシン。自動車に積む12Vバッテリーは、基本的に6つのセルを直列に繋いでいるが、このセル同士を接続するプロセスに使用しているのが、この専用機である。工場で使われているのは25年のキャリアを誇る古株で、最近はトラブルが頻発している模様。

グレアム:こうやって毎週機嫌を損ねられたら、生産がどんどん遅れちまう。週に4〜5時間は無駄にしてるんじゃないか?

ポール:今時、手動で稼働しなくちゃいけないっていうのも、なんとも効率が悪い。社長は「1日1000セル生産!」なんて言うけども、どだい無理な話だよ。1日400セルを作るのだって精一杯なのに。

Agent K:省人化、自動化、効率化にお悩みならば、ロボット導入を考えてみては?

クライヴ:ああビックリした。なんだい、ロボットだって?

Agent K :はい。手動の専用機を使って数人がかりでやっていることを、そのままロボットに丸ごとやらせてしまうんです。

グレアム:しかしねえ、やることは案外複雑なんだよ。こうして、この重たいバッテリープレートを積み重ねて、溶融したスズや鉛に浸して、それをプラスチック容器に梱包するんだけど、それだけじゃないんだ。プレートは決められた場所にぴったり配置しなくちゃいけないし、溶かしたスズや鉛に浸ける前には、ちりやほこりなんかを綺麗に落としてやらなくちゃならない。

クライヴ:だから、このラインはオレたちが9〜10人がかりでなんとか動かしてるんだ。

Agent K :このロボットを使えば、5人配置でOKです!

彼らの前に突然現れたのは、大型の6軸垂直多関節ロボット(A)。橋りょうを支える土台のようながっちりとした架台の上に、2m近くある堅牢なアームを据えた重厚長大な姿は、自動車工場などでもお馴染みだろう。

Agent K :このロボットは、最大300kgを扱うことができる力持ちです。図体は大きいけど、手先はうんと器用。プレートの整頓から塵や埃の掃除、プラスチック容器にしまいこむ作業まで、一つのハンド(ツール)で、全てこなしてくれますよ。

ポール:へえ、これまで手動でやっていた作業のほとんどをこいつがやってくれるってわけかい?

Agent K :作業者によってコンベア上に積み重ねられ整列されたプレートを、ピックアップしてブラシの上を走らせて粉じんを除去、フラックスにより酸化物を取り除いた上でスズ、鉛に潜らせる。そうしてがっちり接続されたプレートの一群を、最後にプラスチックケースに収めるまでが“彼”の仕事です。

ポール:なるほど。それだったら(1)油圧リフトでバッテリープレートを移送、(2)運ばれてきたプレートを水平に積み重ねてロボットに渡す、(3)出てきたプラスチック容器を回収する、の3ヵ所に人間が居ればいいってことか。(2)はどうしたって手作業になるから2人がかりだとして……。

グレアム:あとはバッテリーの種類が変わったときにロボットやツールの仕様を変更する全体統括のような役割が1人いればいいから、あの場所に1人、あっちにもう1人で…、本当だ、5人で済む!

Agent K :最大1日500回、文句も言わず淡々と作業を繰り返してくれるので、目標の「1日1000セル」も夢じゃありませんよ。

ポール:ああ、これだと重量物を人間が扱う頻度が減るから、怪我のリスクも大幅に減少するね。

クライヴ:それに鉛の粉じんなんかにさらされる危険もなくなるから、作業環境がぐっと安全になるわけだな。

グレアム:しかしこういうロボットっていうのは、覚えなきゃいけないことも多いんだろう?なんだかややこしそうで気が引けちゃうよ。

Agent K :操作方法の習得は、さほど難しいことではないんですよ。専用のトレーニングで基本的な扱い方とプログラミングを4日ほど勉強すれば、日常の操作が出来るようになります。あなたもあなたも、そしてあなたも、すぐにオペレーターになれますよ!

後日、地元紙の経済面にBattery Builders, LLC(BBI)の取材記事が掲載された。最後に、記者との一問一答を引用しよう。

記者:ロボットによる自動化でどのような変化がありましたか。

BBI:故障しやすい旧式マシンを置き換えてから、生産量が400セル/日から1000/日に増加しました。以前古いマシンを操作していた人員を、重要な最終工程に配置することで、製品品質を向上させることもできました。弊社の環境安全衛生スペシャリストによれば、「暴露空気モニタリングの結果、大気中の鉛粉じん濃度が低下している」との報告もあり、自動化の影響が、会社の収益だけでなく従業員の作業環境にも反映されていることはとても重要なポイントです。

記者:ロボット導入にあたって、苦労されたことは?

BBI:ロボットのインストールはとてもシンプルに完了しました。操作方法の取得もさほど複雑ではなかったですね。いまや、私もこう人に勧めるようになったんですよ。『ロボットの導入に気遅れしちゃいけないよ』って」

ネイパービルを南北に走るデュパージュ川のほとり、一人の男がベンチに腰掛け新聞に目を落としている。視線の先には、ロボットの脇で微笑む3人の従業員の写真。満足気に一つ頷くと、彼は新聞を折り畳んで立ち上がり、歩き出した。世界のどこかで悩んでいる仕事人を、再び笑顔にするために。

[付記]
このストーリーは、川崎重工における事例に基づいたフィクションです。顧客の希望は「旧式のCOSマシンに代わり、継続的な生産を可能にする信頼性の高いソリューション」と「組立プロセスに配置する人員の削減」、そして「作業環境の改善」。実際の現場では、1台のZX 300 Sロボットを配置。(1)バッテリープレート整列、(2)ブラッシング、(3)フラックス処理、(4)スズ浸漬、(5)鉛浸漬、(6)ケーシングの6プロセスを1台のロボットでタスク処理しています。これにより、従来9〜10人の従業員を必要としていた同プロセスは、5人体制で稼働が可能になりました。余剰人員を重要な最終工程に再配置することで、製品品質の向上にも繋がっています。

今回のケースで登場した川崎重工製品については、以下をご参照ください。

A)ZX 300 S

最大可搬質量300kgの大型汎用ロボット。最大リーチ2501mmと広い動作範囲を誇る上、位置繰り返し精度±0.3mmという高い再現性を確保。重量物を精密にコントロールする必要のある現場で活躍している。ヘビー級の「Zシリーズ」には他に、130kg、165kg、200kgのバリエーションがある。

ZX 300 S

川崎重工業株式会社のSNSをフォローいただくと、XYZの更新情報や、
産業用ロボットなどについての最新情報をお届けします。

その他の世界で働くロボットたちの今の記事を読む