国産マスクを作った「洗浄のプロ」 マスク製造を1年足らずで全自動化した“効率家”

兵庫・尼崎に「洗浄のプロ」と呼ばれる企業がある。株式会社ショウワは、業務用食品洗浄機及び工業用洗浄機を開発・販売するプロの機械設計集団だ。そのショウワが、2020年3月からマスクの生産をスタート。それからわずか1年足らずでマスク事業の売り上げは本業の洗浄機に次ぐものとなり、いまや第2の柱となっている。まさに疾風迅雷の勢い−−それを可能にしたカギは、自動化にあった。

“枠”を拡大するための効率化

ショウワ本社の入り口正面で訪問者を出迎えるのは、一幅の書。そこには、「スピード感」の5文字が大書されている。これは株式会社ショウワが2021年のスローガンとして掲げるキーワードである。

同社代表取締役社長の藤村俊秀氏は、「今は以前のような“選択と集中”の時代ではなくなった」と言う。事業のコアは業務用洗浄機に違いないが、洗浄機と一口に言っても、洗う対象が異なればメカニズムもシステムもまったく違ってくる。自動車や建機、モバイル機器の部品から物流用パレットにコンテナ、食器と、ショウワの洗浄機がカバーする分野は幅広い。それだけ多様さに富む広範な製品を、同社はグループ企業含めて100名足らずの規模でハンドリングしている。

同社代表取締役社長 藤村俊秀氏
▲同社代表取締役社長 藤村俊秀氏

「1つのことだけに特化したら、その業界が行き詰まれば立ち行かなくなります。だから我々は常に頭を切り替えて、枠を広げることで生き残ってきました」(藤村氏) その“枠”はここ数年でさらに大きく広がり、ついに洗浄機以外の事業にまで拡大している。洗浄装置メーカーとして培った技術を活用し、ロボットシステムやセンサー事業に着手。さらに、食品ロスを有機肥料に変える新しいリサイクル方法等環境負荷低減を見据えた生分解性物質の開発や、人手不足が著しい農業ビジネス活性化のための人材教育を進めるイノベーションセンター開設など、未来を見据えた新分野にも進出しようとしている。限られた人的リソースで多角的なビジネスを展開するために必須となるのが、効率化である。より少ない時間と労力で、最大限の効果を生み出す。その効率的思考の反映とも言えるのが、超速で完成した同社のマスク製造ラインだ。

生産体制の垂直立ち上げを可能にした自動化

2020年3月、日本中の店頭からマスクが消えた。新型コロナウイルス禍で起きた深刻なマスク不足への対処は、喫緊の課題となっていた。

「東日本大震災のときに、高圧洗浄機10台と幾ばくかの現金を寄付したのですが、それが当時自分に出来た精一杯のことでした」(藤村氏) 思うような支援が出来なかった悔しさは、モノづくり企業のトップを不織布マスク製造へと突き動かした。一度決めたら、脇目は振らない。本社から車で10分ほどの場所にある倉庫のフロアを丸々改造し、製造機械や周辺機器の設置、防塵塗装やクリーンルームの導入を次々に実施。2ヵ月後には量産体制を整えていた。

倉庫内を改造したマスク製造ライン
▲倉庫内を改造したマスク製造ライン

「5月から生産をスタートしました。でも、(月産)数十万枚のうちはよかったのですが、100万枚を超えると作業する人員がおびただしい数になってきた」(藤村氏) 立ち上げ当初は人の手による作業が多く、リードタイムがかかり仕掛品が膨れがちであった。不良品も頻出したという。当時の生産能力は月に150万枚程。しかし1ヵ月の注文は200万枚を優に超える。収益構造を鑑みながらその課題をクリアするために藤村氏が考えたのは、マスクの製造から検査、包装、梱包までの工程を全自動化したラインだった。

不織布を裁断し、重ね合わせ、折り目をつけ、ノーズフィットワイヤーと耳紐を取り付け、不具合や欠陥が無いかをカメラで検査し、一枚一枚をビニールで包装し、ロット分ごとに箱へ梱包する。この一連の作業を自動化することで、これまで50名ほど必要だった人員は大幅に縮小することができ、ついには月産200万〜300万枚のマスク製造が可能になった。さらに細かな改善を重ねた結果、いまや最大月産900万枚以上の製造にも対応できるという。川崎重工の高速ピッキングロボット「Yシリーズ」も、このラインで24時間活躍しており、搬送にかかっていた人員は10名から1名へと削減。合理化に大きく寄与している。

「duAroも含めて、多関節ロボットは洗浄機周りや調理補助ロボット開発の現場などでたくさん使っていますが、マスク製造にはスピードが必要。能力的に考えて、パラレルリンク型ロボットを導入するのは必然でした」(藤村氏)

倉庫内を改造したマスク製造ライン
▲工場内で稼働する高速ピッキングロボット
▲ピッキングロボットが稼働している様子

パラレルリンク型ロボットは、UFOキャッチャーを思わせる細いアームを使い、素早く正確に搬送することができる。主に食品業界や電子部品工場などで利用されるものであり、大型の機械を取り扱うショウワでこの種のロボットを使う機会はこれまでなかった。しかし藤村氏はバックキャスティングの思考で物事を判断する。現在から未来を考えるのではなく、未来の“あるべき姿”を起点に解決策を見つけるからこそ、新しいロボット導入に躊躇はしなかった。藤村氏の思い描くビジョンには、マスク製造の事業化がはっきりと見えていたからだ。

“効率家”ならではのロボットの活かし方

藤村氏は、洗浄機業界の中でも、「ロボットを一番使っているのはうちだと思う」と語る。効率化によるスピード感を何より大切に考えるからこそ、ロボットの持つ「自動化」と「汎用性」というアドバンテージに魅力を見出している。つまり、“ロボットの活かし方”をよく知っているのだ。だから前例のない速さでマスク製造の自動化も達成できた。

独自の自動化ラインを完成させた藤村氏は、すでに次のフェーズへ取り掛かっている。それは「材料を供給したら、あとは全自動でマスクが箱詰めした状態になって出てくる」という製造機を作り出すこと。ノウハウのない企業でもマスク生産に乗り出せるようにすることで、国内自給率の向上に貢献しようとしている。

ショウワのオフィスには、もうひとつの書が掛けられている。「知行合一」。知識と行為は一体であり、知は実践を伴わねばならない。ロボットの知識は、藤村氏という実践家によって現実社会で活躍の場を広げているのである。

株式会社ショウワ

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