協働ロボットとは?―人間の新しいパートナー、協働ロボットが変えるものづくりの現場

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生産工程の自動化を実現する産業用ロボットが誕生したのは、いまからおよそ60年前。以来、日進月歩で進化してきた「はたらくロボット」の世界で、近年とくに注目を集めているのが協働(ヒト共存)ロボットです。人に“代わる”だけでなく、人と“共に”働く存在へ。今、協働ロボットがものづくりの現場を変えようとしています。

協働ロボットは、ものづくりの世界に誕生した期待の星。

車、スマホ、テレビ、洗濯機に冷蔵庫。私達の身の回りにある、さまざまな製品を高い品質で大量に生産する工程で、産業用ロボットの存在が欠かせません。マニピュレータ(アーム)と制御盤(コントローラー)をもつ産業用ロボットは、アーム先端の人間の手首に当たる部分に、塗装スプレー、溶接機器、ものを掴むハンドなど、さまざまな種類のものを取り付け、それに合わせた動作をプログラミングすることで、塗装、溶接、組み立てといった製造ラインでの作業から、仕分けや運搬といった作業まで、多くの現場で広く活用されてきました。単調な作業だけでなく、たとえば作業員が重量物を運ぶ過酷な環境や、長時間、高速・高精度が要求される作業でも、その性能を遺憾なく発揮しています。

従来、産業用ロボットを含めた生産現場の中のすべての「動く機械」は、人の安全を守るため、人の作業領域と機械の動作範囲を分離することが法律で義務づけられていました。そのため、産業用ロボットを設置する場所ではロボットの動作範囲を「柵」で囲う必要があったのです。

ところが、欧米ではセンサーやソフトウェア技術の進歩に合わせ、安全対策を講じればロボットと人が安全柵なしで共存することが認められるようになりました。そして日本でも平成25年に法律が緩和され、欧州と同様の基準の対策(ISO 10218-1/-2:2011)を行えば安全柵なしで産業用ロボットを使用できるようになりました。それをきっかけに、世界のロボットの6割を生産する日本のロボットメーカーが、こぞって「協働ロボット」の開発をはじめたのです。

協働ロボットのメリット

これまでは主に自動車、電機、電子をはじめとする、いわゆる規模の大きいメーカーの工場を中心に使われてきた産業用ロボット。導入には大規模な周辺設備や設置工事が必要となり、かかるコストも甚大でした。一方、「ちょっとした作業をロボットに代わってほしい」「今までロボットを使ったことがない現場でも活用できるロボットはないか」「スペースには限りがあるが、ロボットを導入して生産性を向上させたい」という声は決して少なくありませんでした。そうした要望に応えて生まれた新しいパートナーが、協働ロボットなのです。

協働ロボットには、①柵などの安全設備を必要としないので、生産現場の省スペース化を図れる ②そのため、専用設備が少なくなり、初期投資を抑えることができる ③将来生産工程を変更するときも専用設備が少ないので簡単に対応できるなど、従来の産業用ロボットにはないメリットがあります。

人と肩を並べ、細やかな仕事にも対応できる協働ロボットは、既存の設備、製造ラインを大幅に変更することなく、人とロボットを適材適所で組み合わせて配置することで、生産効率をアップするだけではなく、これまで自動化されていなかった、より小規模な現場や製造現場以外での自動化も実現する可能性を秘めています。

さまざまな現場で活躍する協働ロボット

さまざまな協働ロボットの中でも、たとえば川崎重工の協働ロボット「duAro(デュアロ)」は、2本のアームを持ち、人ひとり分の作業スペースで設置できるため、簡単に人と置き換えることができます。また、①万一の人との接触などに備えた優れた安全システム ②直接アームを手で動かしティーチングできるダイレクトティーチ ③タブレットでのプログラミング、といったロボット初心者でも簡単に使用できる特長を活かし、ロボット導入の敷居を下げて、新しい製造現場へどんどん進出しています。

たとえば、食品業界では、人の代わりに2本のアームを使って、人の動作と同じ動きでお弁当の盛りつけや、おにぎり・サンドウィッチなどのばんじゅう詰め、食器洗いを担当。化粧品製造の現場では、口紅のふたを閉めたり、スポンジや説明書とファンデーションをワンセットにまとめる作業などで活躍しています。大きな製造レイアウトの変更なしで人と入れ替わることができるduAroは、上記のような製品サイクルが短いために専用機を導入するのが難しく、人手に頼らざるをえなかった製造現場でも活躍できるのです。

また精密電子機器分野においては、既存の産業用ロボットの場合、製品ごとに正確な位置決めのための治具が必要でしたが、2本のアームを持っているduAroは、片アームで位置決め治具の役割を果たし、もう片アームで部品を実装する、といった作業が可能です。そのため、治具製作費用を抑えることができるのです。

そしてコロナ禍の現在では、博物館への来館者に対して、片アームがゲートの役割をし、もう片アームでお客様の検温を自動で行うduAroも登場。このように時代の要請にフレキシブルに対応できるのが協働ロボットの魅力であり、可能性でもあるのです。

これから広がる協働ロボットの市場

これからの製造現場では、さらなる人手不足問題や多種少量生産への対応が要求されるため、産業用ロボットの需要は増大していきます。その中でも協働ロボットは既存の産業用ロボットに比べ手軽に導入が可能なため、活用の機会がますます増えていくことが期待されます。また今後はセンサーやビジョンなど、つまりヒトでいう“感覚”のテクノロジーの進化により、さらに人に近い作業をこなす協働ロボットも増えていくことでしょう。そして、ゆくゆくはAI(人工知能)が発達することで、ロボットが動作を自分で学習し、プログラミングなしに作業を自動化できるといったことも可能になるかもしれません。協働ロボットが人のパートナーとして、本当の実力を発揮するのはこれからなのです。