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人の“感覚”を学習し、継承する 最新ロボットシステム「Successor」に迫る

ロボットによる自動化のハードル

高度化した産業用ロボットは現在、様々な作業を人間に代わって行うようになりました。自動車の工場で、鉄板の部品を熱で溶かして接合するスポット溶接ロボットなどはその代表的なものです。しかし、ロボットによる作業自動化には依然としてハードルがあり、製造業においてロボットが行う作業は全体の約3%(※1)であり、ほとんどの作業は人間が実施しているということをご存知でしょうか。

産業用ロボットを使うためには、事前にロボットに動作を教えるティーチングと呼ばれる作業が必要です。ロボットは、プログラミング技術を持つ専門のエンジニアが、ロボットの動きをひとつひとつ指定して、初めて作業可能な状態となります。このロボットへのプログラミングは、人間が感覚的に行っている作業や少量生産品の製造作業などに対して行うのは現実的ではありませんでした。というのも、熟練技術者が長年の経験と勘を基に、時折変化する作業環境に適応しながら作業する過程を、ロボットのエンジニアが分析してプログラミングするのは大変な作業です。また、受注生産等で毎回生産する製品が異なる場合は、ロボットよりも人間が直接作業した方が時間もコストも削減できるため、経済性の観点から、自動化には向かないと言われてきました。

(※1)国際ロボット連盟(IFR)が発表したレポート「World Robotics 2017」によると、2016年時点の日本の製造業における従業員1万人あたりのロボット導入台数は303台です。この数値は、韓国、シンガポール、ドイツに次いで4番目に高い水準です。

人間の“感覚”を必要とする作業に対する課題

人間の感覚を必要とする作業

作業対象(ワーク)の位置や形状が常に一定で、ワークに対するアプローチが直線的且つ単純な動きであれば、ロボットを使った作業の自動化は比較的容易で、従来から行われています。しかし、実際の作業現場は、このような工程ばかりではありません。微妙にワークの位置や形状が異なり、振動・衝撃・音といった人間の"感覚"でその違いをカバーしている作業は、その場の状況に応じた判断が必要となり、ロボットによる作業は向かない分野とされています。そのため、例えば、“カタカタ”、“ガチャ”といった、作業者の手の感覚や音を頼りに行う作業は人間によって実施されています。

ところが、少子高齢化が進むにつれ、労働人口は減少の一途をたどっており、労働力をいかに確保するか、熟練作業者の技能伝承をいかに実現するか、といった課題に、製造業を中心とした産業分野は直面しています。

ロボット化が困難だった分野への新たなソリューション

川崎重工業が2017年11月に発表した「Successor(サクセサー/継承者)」は、ロボットを遠隔操縦しながら作業することによって人間とロボットの協調を可能とし、熟練作業者の技能伝承など、新たなロボットのあり方を提案する新しいロボットシステムです。このロボットシステムにより、従来ロボット化が難しいとされていた分野に対するロボット導入が大きく前進することが期待されます。

人の作業感覚でロボットを操縦

ロボットの遠隔操縦には、人の作業をロボットに伝える役割を担う「コミュニケーター」と呼ばれる専用の装置を使います。この遠隔操縦装置「コミュニケーター」は、直感的な作業が可能となるよう、作業に応じた形態で用意され、装置を通じて作業の感覚が操縦者にフィードバックされる機能を備えています。そのため、実際に作業しているかのように直感的に操縦できるため、その作業を最も熟知した現場の技術者が自ら動かしながら、ロボットに直接作業の仕方や動き方を教示することができます。まさに、師匠の仕事を見て弟子が技を学ぶ、その技能伝承のプロセスをロボットで実現するのです。

組立 搬送 塗装

これまで、ロボットによる自動化は、大量生産で、ワークの形状や位置が一定の工程を中心に進められてきましたが、「サクセサー」であれば、モデルチェンジが頻繁に行われる製品や、非定型部品を使った製品、小ロット生産製品等の製造・加工工程でも導入が可能になります。

「サクセサー」は、全ての工程を自動化するのではなく、人間によるロボットの遠隔操縦と、その操縦によって動きを学習したロボットの自動運転によって、一部を自動化することも可能です。遠隔操縦と自動運転、両者のコントロールを自由に切り替えたり、うまく連携したりすることで、双方の“いいとこ取り”が可能となります。

AI学習により自動化を加速

さらに「サクセサー」は、人工知能(AI)の搭載により、ロボットが自ら学習することが可能です。人間による操縦データが蓄積されるほど学習が進むので、データにばらつきがあった場合でもAI技術で学習し、最適な動きを判断し、自動運転に変換します。そうすることで自動化できる作業範囲が格段に広がります。

例として、4つの工程がある製造ラインを考えてみましょう(下図左)。まず、各工程に1台ずつロボットを導入して、1人が1台のロボットと一緒に作業するとします。作業を繰り返すことで蓄積された操縦データからロボットが学習し、自ら作業が可能となるため、その作業は自動化されます。残りの作業は人間が遠隔操縦することになりますが、一部自動運転となったことにより、1人が2台のロボットと作業できるようになります。(下図中)。そしてAIにより自動化が進めば、4つの工程も全て1人で担当できるようになるのです(下図右)。

4工程の製造ライン図

遠隔操縦による人間とロボットの協調

人間と一緒に作業するロボットには、同じ空間で働く共存型もありますが、数百キログラムの重量物を扱えるような大型ロボットの場合、人間の安全確保のため、人間とロボットを安全柵で隔離するか、人間の近くで作業するロボットの動きを遅くせざるを得ません。それであっても、実際に動いているロボットと同じ空間での作業では、心理的に安全・安心感を得るのは難しいかも知れません。それに対し「サクセサー」の遠隔協調は、作業者はロボットから離れた場所にいながら、作業現場にいるかのような感覚でロボットと協調作業を行えるため、作業者の本質的な安全を確保しながらロボットの性能を最大限活用することができるのです。

遠隔でロボットと人間が協調作業

新しい協調のかたちがこれからの時代の支えに

前述のように、これまでは、自動車工場といった大規模な量産工場を中心に産業用ロボットは普及してきました。しかし、「サクセサー」の技術は、大型ロボットに限らず、小型ロボットはじめ、どのようなロボットにも適用が可能です。「誰でもロボットに作業を教えられる」「ロボット自ら作業を学習し、習得する」といった特長は、自動化のハードルを大幅に下げ、ロボットの導入を諦めていた、あるいは導入を考えもしなかった製造ラインや工場にも、利用が拡大していく可能性が期待できます。

労働力不足は製造業だけの問題ではなく、多くの分野での影響が予想され、ロボットの活用が注目されています。現在、ロボットは工場内から一般社会へと普及する途上にあり、建設現場や災害対応、そしてオフィスや商業施設など、様々な場所で導入が検討されています。「サクセサー」の登場により、ロボットが遠い存在だった産業分野にとっても、ロボットと人間の共働作業がぐっと身近に、より現実的になったのではないでしょうか。

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